2026年09月30日 からだの情報

タンパク質をとりすぎると、腎臓によくないのは本当でしょうか?

『タンパク質をとりすぎると、腎臓によくない』

ということを聞いたことがある方も多いと思います。タンパク質摂取と腎臓との関係については医療者と思われる方のSNSなどからも見解が様々です。ですが、特定の医療者の一方的な意見ではなく、良質な研究による論文が現在持ちうる最も有益な情報を与えてくれますので、目安となる情報をお伝えしたいと思います。

まず、タンパク質を摂ると腎臓に負担がかかるということを科学的考察により発表した重要なものにハーバード大学ブレナーらの1982年の論文が有名です。ただし、この研究対象になっているのはすでに腎機能がある程度損なわれている動物モデルを対象にしています。これによると、タンパク質負荷により糸球体という血液をろ過する組織の内圧が上がり、将来的に腎機能が悪化する可能性がある、というものでした。それがいつの頃からか、健常者についても『タンパク質を多くとる=腎臓によくない』ということが当たり前に言われるようになってしまいました。しかし、現在に至るまで、健常人を対象とした研究でタンパク質摂取量と腎機能低下とを関連づけたものは私の知る限りほとんどないと思います。

全く別の見方をしてみましょう。肉や魚などからタンパク質を摂取したり、サプリメントの一つであるクレアチンを内服すると腎機能の評価指標の一つであるクレアチニン値が上昇しやすいことが分かっています。この数値が上昇すると、血液をろ過する能力(eGFR: estimated Glomerular Filtration Rate 推算糸球体ろ過量)が見かけ上低めに算出されるようになります。つまり、本当は腎臓が悪くなっていないにも関わらず、一見すると、腎臓が悪くなっているように評価されてしまう可能性もあるわけです。

そもそも、腎機能を正確に評価する、ということが実は意外と難しいのです。前述したように腎臓が単位時間あたりに血液をろ過する能力をGFRといいますが、それを求めるためには汎用されているクレアチニンをはじめ、シスタチンや今回ご紹介する論文で使われているイオヘキソールなど、様々あります。尿所見にしてもタンパク陽性のカットオフをどのくらいから設定するかという基準や定義の問題もありますし、また最近では通常のタンパクではなく、もともと糖尿病のリスク評価で使われている尿中アルブミンを用いた研究なども論文化されています。このようにそもそも腎機能をどのように評価するかが問題になります。医療は日進月歩で、今のところ、eGFR<60mL/分/1.73m²や尿タンパク/Cr比<0.15g/gCrが3か月以上継続する場合、腎臓病が強く疑われると定義されていますが、腎機能は何を使って、どのように評価するかで異なってくるという不都合な事実があります。このように、評価軸が様々あることもこれまでの議論を複雑にしている要因だと思います。野球のボールの材質やサッカーゴールの高さや位置が変わることはあまりないことですが、医学では進歩とともに定義や管理基準が変わることも珍しくないため、一般の方にはより理解しにくいはずです。

では、推奨されているタンパク質摂取量はどのくらいでしょうか?本邦では、おおよそ摂取エネルギーの約15~20%程度、50~65グラム/日(50グラムは女性の場合)とされています。また、米国では0.8グラム/kg/日が最低限の推奨量とされていますから、例えば体重60㎏の方で約50グラム/日程度のタンパク質摂取量が必要になります。ちなみに、タンパク質50グラム摂取するには赤身肉220~250グラムが必要ですので、しっかり意識してタンパク質を摂るように心掛けないと摂取不足になってしまいます。

脱線しますが、受診される若い女性の食事や運動、睡眠などの基本的習慣をヒアリングすると、良質なタンパク質や脂肪の摂取が全く足りていないな、と感じることがあります。気力や集中力の低下、睡眠障害や倦怠感、冷えや頭痛などは十分な栄養がしっかり摂れていないためでは、と私個人は勝手に思っています。

最後に、最近発表された論文をご紹介したいと思います。ノルウェーで行われた研究で1,324人(平均年齢は64歳/男性と女性は50%ずつ)を対象に、ベースラインのGFRは平均89.1 mL/min/1.73 m²と現在の基準に照らし合わせると正常と考えられる集団を平均10年程度観察し、タンパク質摂取量と腎機能低下との関連を検討しました。対象集団の約50%に高血圧があり、約20%程度に肥満を認めました。平均タンパク質摂取量は1.2 ± 0.5 g/kg/日、高摂取群は1.4 g/kg/日以上で、さきほどの一般的な推奨摂取量からすると、比較的積極的にタンパク質を摂取している方が対象になっています。研究結果は摂取量とGFR低下は関連がなく、タンパク質を0.1 g/kg/日多く摂取しても、GFR低下速度との有意な関連は認められなかったとされています。本研究の結論は、腎機能が概ね保たれた中高年では、一般的なタンパク質摂取量ではGFR低下と関連ないため、慢性腎臓病の一次予防としてタンパク質摂取制限することは支持しないとしています。

最近になり、腎臓病を早期発見、早期治療ということが良く言われるようになり、健診やドックで異常を指摘され、再検査や精査のために受診される方が増えています。ただ、少なくとも腎機能が健常と考えられる方についてはタンパク質摂取制限を行う必要はないと思われます。もちろん、摂りすぎは単に摂取カロリー過多になりますので、全体のバランスを考慮すべきですが、『タンパク質は良くないから、あまり摂らない』という極論は最も重要な栄養素が不足する可能性があり、厳に慎むべきと思われます。

『肉、魚、大豆など、タンパク質をしっかり摂って、元気に過ごしましょう!』

参考論文
N Engl J Med. 1982 Sep 9;307(11):652-9.

Clin Kidney J. 2026 Jul 11;19(8):sfag235.

 

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