いよいよ肥満を治す時代に!
今世間で話題になっている『やせ薬』をご存じの方も多いと思います。美容領域で自費診療として積極的に使われている薬(注射および内服)です。
ただ、この薬、実は痩身(美容)のためのものではないのです。
GLP-1受容体作動薬は糖尿病治療薬として安全性と効果という面で非常に優れた薬剤で、注射剤と内服薬があります。血糖降下作用のみならず、心臓病予防効果も認められており、全世界的に積極的に使われるようになっています。この薬剤の優れている点はこれだけではありません。減量効果があるため注目されているのです。
過去、糖尿病治療薬はさまざまなものが使われてきました。一部にはむくみが出る可能性のあるものや体重がむしろ若干増加する可能性があるものなど、一長一短でした。
GLP-1受容体作動薬の減量効果はすでにエビデンスとして確立されており、海外からの報告では平均BMI41.3の方にセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)の皮下注射を毎週行うと、3か月で6.7㎏、6か月で12.3㎏の減量効果を認めました。ただ、吐き気や下痢などの消化器症状が程度の差はあれ、半数近くの方に認められるなど、十分に注意しながら投与が必要と考えられます。ちなみにBMI41というと、身長170㎝の場合、体重120㎏であり、高度肥満が対象になっていました。
肥満の問題点は、生活習慣病や心血管病、無呼吸症、がんなど、様々な疾患の原因になりうるということです。そもそもこの薬剤は糖尿病治療のためのものですが、もし、糖尿病がない肥満の方に使うことで、減量と疾患予防の両立ができればそれはかなり意義があることだと思います。
まさにこの夢のような疑問に対する答えがつい先日、世界ナンバーワンの臨床医学雑誌で報告されました。糖尿病がない平均BMI33程度の方にセマグルチドを毎週投与すると、約40か月で約10%程度の減量と20%程度心血管病の発症を抑えることができるというものでした。肥満に対する薬物治療で、その後の疾患予防ができる可能性を示唆する画期的な報告と言えます。
今後、日本でも保険診療で肥満を治療することが可能になりつつあります。
ただ、繰り返しになりますが、肥満の治療薬であり、美容目的の使用は本来の薬剤の目的から外れたものであり、好ましいことではないと思います。
参考文献
JAMA Netw Open. 2022 Sep 1;5(9):e2231982.
N Engl J Med. 2023 Nov 11. doi: 10.1056/NEJMoa2307563.
中目黒診療所 内科・循環器内科
院長 西原崇創