2026年06月30日 からだの情報

心血管腎代謝症候群/CKM syndromeのガイドラインについて解説します

今回はどちらかというと、医療者玄人向けになりますので、一般の方もご興味あれば頑張って読み進めていただければと思います。アメリカ心臓協会など、米国の主要学会がまとめた心血管・腎・代謝/CKM(Cardiovascular-Kidney-Metabolic)症候群のガイドラインについて、ちょっとだけ私見をまじえて解説いたします。

心血管・腎・代謝/CKM(Cardiovascular-Kidney-Metabolic)症候群は肥満や内臓脂肪増加による代謝リスク(肥満/高血圧症/脂質異常症/糖尿病)と心血管系と慢性腎臓病の相互作用により多臓器障害と脳心血管疾患などを招く病態です。従来、心臓と腎臓という二つの重要臓器を『心臓が悪いと腎臓が悪くなる』、『腎臓が悪いと心臓にも悪いので重大な疾患を発症しやすくなる』という病態をまとめた心・腎連関もしくは心腎症候群(Cardio-renal syndrome)という概念がありましたが、メタボリック症候群(いわゆるメタボ)における肥満や内臓脂肪の病態生理的理解が進み、心臓、腎臓と代謝因子の相互作用に時間軸(ステージ)の要素加え、より一般化したものが心血管・腎・代謝/CKM(Cardiovascular-Kidney-Metabolic)症候群と言えます。

心血管・腎・代謝/CKM(Cardiovascular-Kidney-Metabolic)症候群のステージ
ステージを理解することで治療介入の強度をイメージし、病期進行を抑えやすくする

ステージ0
正常体重で血糖や血圧および脂質異常症を認めず、腎機能正常で、心血管疾患を認めない
いわゆる『健康と考えられる』状態
ステージ1
体重増加に伴い、脂肪細胞の増加と機能異常を生じ、前糖尿病(耐糖能異常)を認めるもの
ステージ2
代謝リスク因子(高血圧/高中性脂肪血症/メタボリック症候群/糖尿病)や中等度から高リスクの慢性腎臓病を有する状態
ステージ3
無症候性(サブクリニカル)心血管疾患(冠動脈石灰化や心不全の前段階)、高リスク慢性腎臓病や10年間での心血管疾患発症の予測率(PREVENTによる)が20%以上(高リスク)である状態
ステージ4
狭心症などの冠動脈疾患、心不全、心房細動、脳卒中、末梢血管疾患を有する状態

 

ステージ0は、まだ動脈硬化の進展が目立たない状態で、生活習慣が大切です。アメリカ心臓協会は一般の方に日々の生活習慣で特に留意すべきことを分かりやすく伝えるために心臓と脳を守る8つのポイントLife’s Essential 8を掲げています。この時期は一般に薬物療法は適応になりません。

最近になり、CMやつり革広告で『肥満症』について見たことがある方もいらっしゃると思います。肥満とは一般にBMI(身長と体重から計算される肥満度の指標)が25以上の状態で、肥満症とはBMIが25以上で生活習慣病や脳心血管疾患の既往や無呼吸症、体重増加による運動器障害がある場合や、内臓脂肪型肥満(腹囲 男性85㎝以上 女性90㎝以上)を認める場合を指します。肥満は体重が多いのみですが、肥満症は病気として認識されます。CKM症候群のステージでは肥満はステージ1となり、肥満症はステージ2から4に該当します。このようなことからも肥満症に対して積極的介入が大切であることが分かります。初期の減量目標はマイナス5~10%程度とされています。減量はなかなか難しいですが、モチベーションを保てるように周囲の適切なサポートや個人に合わせた目標と環境設定が重要です。

ステージ2からは慢性腎臓病の早期発見や早期介入の必要性から少なくとも年1回はeGFRやアルブミン尿の評価(アルブミン・クレアチニン比)を行うべきとされています。アルブミン尿は糖尿病での評価でご存じの方もいると思いますが、最近になり、慢性腎臓病でも客観的指標と予後評価という点で重要視されるようになりました。日本では、一部の健診やドックでeGFRまで分かりますが、アルブミン尿の測定も今後行われるようになるかもしれません。

ステージ3はより重篤な4への進行を防ぐため、特異的血液検査(バイオマーカー)や各種画像検査を行ない、疾患発症を防ぐ努力を積極的にすべき時期と言えます。年齢や性別、血圧値やコレステロール値などを入力して10年間の心血管イベントや心不全発症などを予測する計算ツールであるPREVENTを用いリスク層別化を行ない、指導や治療介入の参考にします。特に、10年間の心血管病リスクが20%以上である場合、ステージ3と同等の介入が必要になるので、注意が必要です。

薬物療法はGLP-1受容体作動薬やSGLT2、RAS系阻害薬を病態に合わせて組み合わせることが重要です。その中でも最も注目されているのはGLP-1受容体作動薬であると言えます。糖尿病治療薬であるだけではなく、減量効果もあり、本症候群における中核的な役割を果たすものと言えます。現在、主流の治療薬はチルゼパチド(GLP-1/GIP)とセマグルチド(GLP-1)ですが、GLP-1/GIP/グルカゴンの3つの受容体へ作用する薬剤(Retatrutide)の臨床試験が進行中で今後新たなブレイクスルーになると期待されています。GLP-1受容体作動薬は心血管疾患発症抑制や睡眠時無呼吸症を改善する可能性も証明されており、中断後のリバウンドや一部に副作用の問題もありますが、幅広いニーズに対応できる薬剤として臨床応用されています。

ステージ4では既存の疾患に対する標準的な治療と二次予防をしっかり行うことが重要です。このようにステージで考えていくと、ステージ0~1までが実は極めて重要であることが分かります。日本は健診大国ですが、健診でもこのレベルに対して積極的に介入することはあまりないので、今後、社会の認識もより前倒しに変化することが望まれると思われます。また、心臓と腎臓は脳とも自律神経や一部のホルモンで密接に関係しているため、心血管・腎臓・脳・代謝症候群というような言葉も今後出てくるかもしれません。ちなみに、肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患や間質性肺炎などの呼吸器疾患があると心疾患を合併しやすくなるとされています。ただ、こうなってくると、もはや個々の『臓器』から入るのではなく、まず『全身』を俯瞰的に見ることがより大切になってくると思われます。

臓器ごとに診る時代はそろそろ限界に近付いていると言えるかもしれません。

 

参考文献等URL
2026 AHA/ACC/ADA/ASN Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of Cardiovascular-Kidney-Metabolic Syndrome: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines

Triple–Hormone-Receptor Agonist Retatrutide for Obesity — A Phase 2 Trial

Retatrutide, a GIP, GLP-1 and glucagon receptor agonist, for people with type 2 diabetes: a randomised, double-blind, placebo and active-controlled, parallel-group, phase 2 trial conducted in the USA

Life’s Essential 8™

The American Heart Association PREVENT™ Online Calculator

 

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