注射で高血圧を治す時代が来る?
高血圧症は非常にコモンな病気の一つです。すでに、様々な薬剤が開発・臨床応用され、多くの人の健康を守ってきました。そんな高血圧治療に一石を投じる薬剤が登場するかもしれません。今回はこの“クスリ”について解説したいと思います。
そのためにはまず、“RNA干渉”という言葉をある程度理解しておく必要があります。(子供のころの理科の勉強を思い出してください)遺伝子にはDNAとRNAがあり、DNAの遺伝情報を読み取り、必要なタンパク質合成を行う情報伝達係がmRNA(メッセンジャーRNA)ですが、そのRNAと対になる塩基配列を持ち、ある種のタンパク質と複合体を作り遺伝子発現を抑制しているRNAが存在することが分かっています。
もっと分かりやすく表現すると、DNAから単純にタンパク質が作られるのではなく、ある役割を担ったRNAが遺伝情報伝達係であるmRNAの役割をブロックすることがある、というものです。mRNAがブロックされると、当然その後のタンパク質合成が行われなくなります。このような横やりを”RNA干渉(RNA interference)”と呼ぶのです。
この現象はすでに複数の薬剤で臨床応用されており、今後の医薬品開発に期待されています。そして今回、血圧上昇に関係するアンギオテンシノーゲンの合成に関わる遺伝子発現をRNA干渉を利用して阻害する薬剤(Zilebesiran)が開発されました。まだ治験段階ですが、皮下注射することで、アンギオテンシノーゲンが低下し、血圧値も下がることが認められています。もしかすると、高血圧治療も毎日クスリを飲むのではなく、ときどき注射を受ければ十分、そんな時代が近い将来来るのかもしれません。
引用文献
N Engl J Med 2023;389:228-38.
中目黒診療所 内科・循環器内科
院長 西原崇創